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とんでもない乱入をしたのだからそのくらいは吐けと言われ、
自分と彼の青年との交際の進度を中也から問われたのへ。
バードキスまでですと白状させられた太宰の、
まずははぐらかした後、そっぽ向いちゃったほどの照れようも意外だったが、
それ以上のなまめかしいことを聞かされたなら それはそれで、
次からどんな顔して会話すればいいんだろうと実はドキドキしていた敦くんであり。
さすがは大人で、ある程度は男女経験もあるしということか、
その辺り 中也は平気だったのだろうかと、あとでこっそりと訊いたらば、
『いや、そう艶めかしいレベルじゃあなかろうって確証があったしな。』
敦も居るのに生々しい話を引っ張り出してどうするよと、
目許近くへ降ろした前髪を掻き上げつつ苦笑した中也にしてみれば、
ほぼ毎日のように職場で顔を合わせているだけに、
芥川本人の様子にさして変化がないので、さほど進展はしてないなと踏んではいたらしい。
そういうことまで留意しているんですね。お父さんだ、相変わらず。
というか、何かあったら またぞろ敦くんへの相談依頼…なんてことになりかねないし?(笑)
……で、
柄にない照れようをしつつ太宰が口にした“バードキス”だが。
キスというとディープキスとかフレンチキスとか、そんな程度しか名前は知らなんだ人も多かろう。
ちなみに、フレンチというから軽いのを言うかというととんでもなくて、
実はディープキスのことだそうです。フランス映画などに出てくるそれは激しいの。
もーりんも別のお部屋でそう使ってて “間違ってますよ?”と教えていただき、
真っ赤になってから真っ青になったもんですが。(笑)
で、バードキスというのは、口許を少し尖らせてチュッと相手へ贈るそれ。
お互いに軽くくっつけ合うのが “ライトキス”で。
少し強く押し付け合ってその感触を楽しむのは “プレッシャーキス”。
先程こちらのお二人が堪能していたのは これに当たるのかな?
甘噛みしていたから “スウィングキス”でしょうか。
「放っとけよ。/////////」
ああ、すまんすまん。(笑)
だがだが、ということは、
太宰氏の自己申告によれば、恐らくは彼の側からのやや一方的なそれ、
ご挨拶程度の口づけしか為してはないということになるのだが、
「…いや、それはないだろ。」
この期に及んでまだそんないい加減を言うかと、
今度は呆れるという方向で疑うような顔になった中也であり。
そこのところは敦も同感だったか、遠慮もなく小首を傾げて見せている。
希代のプレイボーイとまでは言わないが、
それでもこの美貌だし、愛想もいいし、
冗談抜きに 美人と見れば片っ端から手を取って
“美しいお嬢さんvv”と口説くのが礼儀だと思っているような振る舞いも相変わらず。
“まあ、そっちでは心中しませんかと続くから…。”
本気で口説いているようには見えなくて。
過去は知らぬが最近の調子では、
そのまま色事関係のお相手に発展しそうな出会いには つながってなさそうで。
ただ、そのご挨拶の段階で手の甲に口づけ落とすこともあるくらいだから、
抵抗とかある人ではないのは変わらぬ。
…と来れば、
色んな意味での四年ものすれ違いがやっと修復を見て以来、
それは大切で大切で、出来る限り傍に居たいとし。
自分だって独断専行し、消息不明になることおびただしいくせに、
行方が判らなくなるのが不安だからと
発信器だの盗聴器だの必ず装備させてたほど (今はさすがに控えているらしいが・笑)
そこまでの執着を添わせるほどの想い人であるあの青年へ。
勝手に性行為込みの進展希望と決めつけるのは失礼ながら、
それでもあのその、接吻のレベルくらいは
もうちょっと進んでいるものと思ってしまっても仕方がなかろう。
「今更キスの仕方も知らないとは言わないよなぁ。」
「まあね。」
さすがにそこはねと、困ったような顔になって苦笑をしたものの、
そのままのちょっぴり大人しめの視線を、
中也のお隣にちょこんと座っている敦へ向けると、
「ちょっと不躾なこと訊くけれど、
敦くんて中也が初めてのキスの相手?」
「え?////////」
問われた少年が真っ赤になったのとほぼ同時、
いつ立ち上がったかも判らないほどの瞬殺な手際で、
太宰が居たところへ どんっと中也の鋭いかかと落としが炸裂したから、
思ったより忙しいぞ、この話。(こら)
「冷やかしてるわけじゃないんだって、訊くだけ訊かせてよ。」
こちらもおさすが、
長年の相棒歴は伊達じゃない的な勘の良さの無駄遣いか、
そりゃあなめらかな動作ですっくと立ち上がり、
間際すれすれへ落ちた蹴撃へそんな言いようをする美貌の君へ、
「いつもの不調法を知ってるだけに、こっちも反射で動いちまうんだよ 」
今更茶化しているわけではないらしいと何となく判っていつつも、
ついつい、ウチの純情少年を振り回すんじゃねぇと牙を剥いてしまったらしいお兄さんが、
それで “すまんな”のつもりか、おっかない物言いを返すものだから。
「えっと、あの、答えなきゃいけないでしょうか。///////」
渦中の“ウチの子”敦くん、
律儀にも双方のお兄さんの立場を立ててか、そんな応じを返しているものの、
それよか巻き添え食わないうちにどっかへ避難した方がいいかもだぞ?
えとえっとと、やや控えめに声を発した彼なのへ、
まあしょうがないかと、
ソファーに片足引っ掻けたままという勇ましい格好のまま
そちらを見返った中也が顎を引いて了承し。
それへ励まされるように、うんと頷いて気合いを入れ、
「ちゅ、中也さんが初めてです。」
…何を妙なインタビューごっこしている男たちなんでしょうか。
恥ずかしい告白には違いなく、えいっと頑張って答えた敦なのへ、
よしよしと目許を柔らかく和ませて、飛びっきりの頬笑みを見せた太宰氏、
「じゃあ、さっきのキスの仕方も中也から教わったようなものだよね。」
「教えた…ってのはちょっと微妙な言いようだがな。」
箸の上げ下げじゃねぇんだ、ああしてこうしてと教えた覚えはねぇよと、
これは中也が補足をすれば、
それを追うように付け足された問いかけがあって。
「じゃあ、目を瞑ったのは…自然な反応?」
「………はい。」
ああそうかと、何とはなく…というか話がここまで至ったお陰様、
太宰が何を確かめたかったのか、こちらの二人もようやく理解する。
「もしかして。」
「芥川くん、目を瞑らないんでしょうか?」
to be continued.(17.05.22.〜)
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*短いので前の章にくっつけようかとも思ったのですが、
若しくはもうちょっと書いてから…。
それより早くUPした方がいいかと思いまして、
またぞろ細切れですがここまで、どうかご賞味ください。

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